風は涼しい、しかし歩くにつれ汗をかいてきた。
わたしが一気に登ろうとしたものだから、マリコさんにそんなにペースを上げないで・・・とリクエストされた。なので、ゆっくり休みながら行った。
わたしはこの山登りのために、ジムで走りこんできた。疲れないうちに一気に登りたかったのだ。
ところどころで、下山してくる人々と出会う。ハイキングコースだけあって、誰も装備していない。ベンチで休んだり、写真を撮ったりしながらゆっくり登った。
徐々に岩肌が見えてきた。空に近づいて行く。思ったより早く洞窟に着きそうだ。
何あれ?岩の上に、十字架に貼り付けられたイエス、見守る弟子たち、マグダラのマリアの等身大人形が岩肌に飾られている・・・。生々しい・・・テーマパークみたい・・・俗だなあ・・・。
けれど、ここからは聖地だから、肌を出してはいけない、という注意も現れる。
ごつごつした岩を登る。冬はさぞ寒いだろう。下界を見下ろすと、プロバンスの緑と石灰質の地肌が見える。今までに見たことのない光景だ。
私たちは、ゆっくりと石の階段を登った。広場に出て、目の前は教会になっていた。
扉を開くと、そこは暗い洞窟であった。ステンドグラスからの光と巡礼者が手向けた蝋燭の明かりのみ。
その広い洞窟の中に、うっすらとマグダラのマリア像、そして大天使ミカエル像も見える。思った以上に広い。ここで、数十人が修行していてもおかしくない広さだ。
今でもここは日曜ミサなどに使われるそうだ。数箇所にマリア像があり、信者の方の花やお礼の手紙などが置かれていて、蝋燭が燃えていた。
マリコさんとわたしはそれぞれ一人でマリア様に向かっていた。それぞれに惹かれる場所があった。
わたしは、マリアとミカエルの前に跪いて祈った。
マリコさんの泣き声が聞こえてきた。なぜ泣いているのだろうか?ここが懐かしいのだろうか?
マリコさんは、一箇所、怖くて近づけないという場所があった。この洞窟で過去に何かあったのだろうか。
カモワンタロットを学ぶ者で、この地を訪れることになる者は少なくはないだろう。深くカモワンと関わる決意をした者は、イニシエーションとしてこの洞窟を訪れなくてはならないのだ。ここまで来ることがまずは修行だ。休みを取って、資金を用意し、長時間飛行機に乗り、列車、バスと乗り継ぎ、最後は登山。ここに巡礼に来ることは特別のことなのだ。